「うちで中国語を勉強している日本人の男性、たいてい中国人の彼女がいるわね」「へえ、そうなの。なんでなのかしら」「よく分からないけど、寂しいんじゃない」私が北京で通っていた、中国語学校での会話である。二人とも若い中国人の女性。その学校の中国語講師と事務員だ。まさかそんな話に「俺にも彼女がいるよ」と加わるわけにもいかない。黙っていた。すねに傷のある身である。私は日本の某企業の駐在員として上海で七年暮らした。昨年、日本に帰ってきたところだ。家族の都合で、向こうでは単身赴任。もっとも愛人にお手当てを出すような給料はもらっていないから偶然知り合った中国人の女性と付き合った。だから正確には愛人というより…現地妻である。必要な者同士がなんとなく知り合うようになっているから不思議だ。3歳年下の中国東北部出身の人だった。20代の頃に同郷の男性と結婚したけれど向こうがギャンブル狂で離婚したそうだ。それで一人娘を育てて、娘さんは天津で大学生をしているという。韓国に2年間住んでいたことがあってその時には韓国人と付き合ったけれど向こうが一人で盛り上がって「結婚しよう」と迫られて別れたそうだ。私と付き合い始めるときも言っていた。「あなたの家庭を壊すつもりはないから」「カツ、カツ、カツ」週末になると階段を上がってくる彼女のハイヒールの音。私はけっこう面食いなのでオシャレにも気を配っていてあまり40代には見えなかった。でも子ども一人育て上げただけに家庭的なところもあった。家にやってくると必ず料理を作ってくれた。お酒を飲みながらそれを食べてそれからベッドイン。夜中に天井を眺めながら取り留めもないおしゃべりをしたものだ。しばらくそんな付き合いをしたけれど結局ゆえあって私の方から振ってしまった。別に二人はどこかにたどり着ける間柄ではなかったけど悪いことをしたという思いが残った。中国のメッセンジャーアプリWeChatでは今も一応連絡先が残っている。私が日本へ帰る直前、彼女が私の履歴を見に来ていた。どこかで帰国する話を聞いたのだろう。もう連絡することもない。でも自分勝手だけど、ときどきどうしているかなと思うことがある。
48歳男 外国単身赴任の寂しさで
